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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)4252号 判決

原告

日山英次こと鄭英沢

ほか一名

被告

西尾幸雄

主文

一  被告は、原告日山英次こと鄭英沢に対し金一〇七万〇二七一円、原告日山こと金貞枝に対し金九二万〇八三九円及びこれらに対する昭和六一年八月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを七分し、その一を被告の、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告日山英次こと鄭英沢に対し金八三〇万円、原告日山こと金貞枝に対し金四〇〇万円及びこれらに対する昭和六一年八月一五日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和六一年八月一五日午後一時三〇分ころ。

(二) 場所 京都市伏見区下鳥羽上三栖町一六先路上。

(三) 加害車両 被告所有の普通乗用自動車(大阪五二ぬ一二四号、以下、「被告車」という。)

(四) 被害車両 普通乗用自動車(京都四〇ひ七五四〇号、以下、「原告車」という。)

(五) 態様 被告運転の被告車が、原告日山英次こと鄭英沢(以下、「原告鄭」という。)運転、原告日山こと金貞枝(以下、「原告金」という。)同乗の原告車に側面衝突したもの(以下、「本件事故」という。)

2  被告の責任

本件事故の発生は、被告の前方不注視及び衝突回避措置を怠つた過失によるものである。また、被告は、被告車の運行供用者である。

よつて、被告は、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という。)三条により、原告らの損害を賠償する責任がある。

3  原告らの入通院状況

(一) 原告鄭は、本件事故により、右側頭部打撲傷、頸部捻挫等の傷害を負い、次のとおり入通院をし、昭和六二年三月二七日に症状固定となつた。

(1) 昭和六一年八月一五日 蘇生会病院に通院

(2) 同年八月一六日から昭和六二年三月二七日まで高井病院に通院(実通院日数六八日)

(3) 右期間中の昭和六一年八月二五日から同年一一月一五日まで高井病院に入院(八三日間)

(4) 昭和六一年一〇月六日から昭和六二年四月一四日まで枚方市民病院眼科に通院(実通院日数四日)

(二) 原告金は、本件事故により、右肘打撲傷、頸椎捻挫、頸部捻挫、腰部捻挫等を受傷し、次のとおり入通院をし、昭和六二年三月二七日に症状固定となつた。

(1) 昭和六一年八月一五日 蘇生会病院に通院

(2) 同年八月一六日から昭和六二年三月二七日まで高井病院に通院(実通院日数九九日)

(3) 右期間中の昭和六一年九月二〇日から同年一一月一五日まで高井病院に入院(五七日間)

(4) 昭和六一年一〇月二日から昭和六二年四月一四日まで枚方市民病院眼科に通院(実通院日数四日)

4  原告鄭の損害

(一) 治療費 金三〇三万七三〇〇円

(内訳)蘇生会病院 金一万四三二〇円

高井病院 金二九八万二一六〇円

枚方市民病院 金四万〇八二〇円

(二) 付添費 金三三万二〇〇〇円

入院期間(八三日間)中、原告金の親族(義妹)が付添つた。

一日あたりの親族付添費は、金四〇〇〇円が相当である。

四〇〇〇×八三=三三万二〇〇〇

(三) 入院諸雑費 金九万九六〇〇円

一日あたりの入院諸雑費は金一二〇〇円が相当である。

一二〇〇×八三=九万九六〇〇

(四) 通院交通費 金九万一六八〇円

自宅から高井病院に通院した際の往復タクシー代は金一二六〇円であり、自宅から枚方市民病院に通院した際の往復のタクシー代は金一五〇〇円であつた。

一二六〇×六八+一五〇〇×四=九万一六八〇

(五) 休業損害 金五八六万四〇三一円

原告鄭は、本件事故により、前記症状固定日までの七か月半の間就労できなかつた。

原告鄭の昭和五九年度の収入は金九四〇万六九〇〇円、昭和六〇年度の収入は金九三五万八〇〇〇円であり、年平均の収入は金九三八万二四五〇円であつた。

九三八万二四五〇÷一二×七・五=五八六万四〇三一

(六) 傷害慰藉料 金一六〇万円

原告鄭は、重傷を負わされ、約三か月間にわたる入院と五か月間にわたる通院を余儀なくされた。したがつて、本件事故による原告鄭の身体的苦痛を癒す慰藉料は、金一六〇万円を下らない。

(七) 後遺障害による逸失利益 金二〇四万七三九一円

原告鄭は、局部に神経症状を残すものとして、自賠責保険の後遺障害別等級表第一四級一〇号に該当するものと認定を受けた。これによれば、原告鄭は五パーセントの労働能力を喪失し、またその喪失期間は五年(そのホフマン係数は四・三六四三)とみるべきであり、前記年収額を基礎として逸失利益を算出すれば、次式のとおり金二〇四万七三九一円となる。

九三八万二四五〇×四・三六四三×〇・〇五=二〇四万七三九一(円未満切捨。以下同じ。)

(八) 後遺障害による慰藉料 金六〇万円

原告鄭が本件事故により蒙つた後遺障害による精神的慰藉料は金六〇万円を下らない。

(九) 物損(メガネ代) 金四万六〇〇〇円

(一〇) 以上の損害の合計額は、金一三七一万八〇〇二円となる。

(一一) 既受領金 金四七〇万九〇四〇円

但し、後遺障害分は右のうち金七五万円である。

(一二) 弁護士費用 金八六万二六七六円

(一三) 右損害合計額は金九八七万一六三八円となる。

5  原告金の損害

(一) 治療費 金二六四万五〇四〇円

(内訳) 蘇生会病院 金二万〇三二〇円

高井病院 金二五五万八〇四〇円

枚方市民病院 金六万六六八〇円

(二) 付添費 金二二万八〇〇〇円

入院期間(五七日間)中、原告金の親族(義妹)が付添つた。一日あたりの親族付添費は、金四〇〇〇円が相当である。

四〇〇〇×五七=二二万八〇〇〇

(三) 入院諸雑費 金六万八四〇〇円

一日あたりの入院諸雑費は、金一二〇〇円が相当である。

一二〇〇×五七=六万八四〇〇

(四) 休業損害 金一六五万八四三七円

原告金は、本件事故当時、満三二歳の家事従業者であつたところ、本件事故により前記症状固定日までの七か月分の間、家事に従事できなかつた。よつて、昭和六一年版女子(三二歳)賃金センサスを算出の基礎とし、症状固定までに要した月数を乗じた金額を休業損害として請求する。

(一七万一四〇〇×一二+五九万六七〇〇)÷一二×七・五=一六五万八四三七

(五) 傷害慰藉料 金一三〇万円

原告金は、障害を負わされ、約二か月間にわたる入院と五か月間にわたる通院を余儀なくされた。したがつて、本件事故による原告金の身体的苦痛を癒す慰藉料は、金一三〇万円を下らない。

(六) 後遺障害による逸失利益 金五七万九〇三三円

原告金は、局部に神経症状を残すものとして、自賠責保険の後遺障害別等級表第一四級一〇号に該当するものと認定を受けた。これによれば、原告金は五パーセントの労働能力を喪失し、またその喪失期間は五年(そのホフマン係数は四・三六四三)とみるべきであり、前記年収額を基礎として逸失利益を算出すれば、次式のとおり金五七万九〇三三円となる。

(一七万一四〇〇×一二+五九万六七〇〇)×四・三六四三×〇・〇五=五七万九〇三三

(七) 後遺障害による慰藉料 金六〇万円

原告金が本件事故により蒙つた後遺障害による精神的慰藉料は、金六〇万円を下らない。

(八) 物損(メガネ代) 金四万六〇〇〇円

(九) 以上の損害の合計額は、金七一一万二九一〇円となる。

(一〇) 既受領金 金三四四万五〇一六円

但し、後遺障害分は右のうち金七五万円である。

(一一) 弁護士費用 金三三万二一〇六円

(一二) 右損害合計額は、金四〇〇万円となる。

6  よつて、被告に対して民法七〇九条及び自賠法三条に基づく損害賠償金として、原告鄭は金九八七万一六三八円の内金八三〇万円、原告金は金四〇〇万円及びこれらに対する本件事故当日である昭和六一年八月一五日から各支払済みに至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1は認める。

2  同2は、被告の前方不注視の点を除き認める。但し、被告の過失自体は争わない。

3  同3は、原告らがその主張どおりの入通院を行つたことは認めるが、その余は不知。

原告らの症状は、入院や長期間の休業を必要とするほど重いものではなく、本件事故と原告らの入院、休業との間に因果関係はない。即ち、

(一) 蘇生会病院における受診時及び高井病院における初診時には、原告両名にX線検査結果等における異常所見などの他覚的所見はなく、担当医師も通院加療で十分である判断し、入院を指示していない。

ところが、原告鄭は本件事故から一〇日後の昭和六一年八月二五日、原告金は本件事故から一か月以上経過した同年九月二〇日に高井病院に入院した。担当医師が、原告両名とも右入院時には安静が必要な時期を過ぎていたと判断していたことは明らかであるのにこの時期になつての入院は不可解というほかない。

(二) 原告鄭は枚方市民病院において眼科の、原告金は同病院において眼科及び耳鼻科の診察を受けているが、本件事故と因果関係のある異常所見は全く認められなかつた。

(三) 本件事故は追突ではなく、側面からの軽微な接触事故であり、原告らも衝突を予見していた。また、原告車に同乗中の原告らの三人の子供は、入院を必要とするような障害を負わなかつた。

(四) 以上の諸事実からすると、原告らは損害賠償金取得目的のため、症状を誇張している疑いが強く、本件事故により原告らが入院、休業を必要とするような障害を負つたとは考えられない。

(五) なお、原告鄭については昭和六一年一一月五日以降、原告金については同年一〇月二四日以降、症状に特に変化があつたとは認められないから、遅くとも原告鄭は同年一一月五日、原告金は同年一〇月二四日をもつて症状固定とみるべきである。

4  同4及び5の事実のうち、既受領金の点は認めるが、その余はいずれも不知。損害と本件事故との因果関係は争う。

(一) 原告らの入院は本件事故と因果関係がないというべきであるから、入院に伴う費用(入院料、入院時のルーテイーン検査としての肝機能検査費用)については、被告は支払義務を負わない。

(二) 診療報酬明細書に薬品名の記載のない投薬料については、本件事故による治療として用いられたものであるとの証明がないというべきであるから、被告は支払義務を負わない。

(三) 症状固定とみるべき原告鄭の昭和六一年一一月五日以降の治療費及び原告金の同年一〇月二四日以降の治療費については被告は支払義務を負わない。

(四) 原告鄭の症状からみて、休業が必要であつたとは考えられない。

また、原告鄭は、年平均九三八万二四五〇円の収入があつた旨主張するが、原告鄭はダンプカーによる運送業を営んでおり、通常燃料費、車検費用、タイヤ等の消耗品代等の経費を要し、これを控除すべきものであるところ、これらの経費について証明がない以上、損害額についての証明がないものというべきである。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故は、原告車の左前方にいた被告車が進路を変更したために発生したものではあるが、原告鄭においても前方不注視、減速徐行義務違反の過失があり、右過失は、原告鄭及びその妻で経済的同一体を構成している原告金の損害賠償の算定にあたり十分斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。本件事故は、被告車が道をまちがえたためUターンをしようとして、後方安全不確認のまま原告車の前方に急激に発進したため惹起した事故であり、原告鄭に過失はない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び承認等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故の発生及び被告の責任

請求原因1及び同2(被告の前方不注視の点を除く。)は当事者間に争いがない。これによれば、被告は民法七〇九条及び自賠法三条に基づき、本件事故により原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

二  本件事故態様について

前記当事者間に争いのない事実に加え、成立に争いのない甲第一七ないし第二二号証及び乙第一号証、原告鄭本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば以下の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  本件事故地点は、ほぼ東西に一直線に伸びる片側二車線(ただし、本件事故地点の数メートル東側からは東行車線の道幅が減少し、一車線となつている。)のアスフアルト舗装された平坦な道路(制限速度は時速四〇キロメートル)の東行追越車線上であつた(右道路の幅員は、証拠上判然としない。)。

本件事故当時、本件事故地点付近の交通量は少なく、東行車線上を走行する被告車及びその後方の東行追越車線上を走行する原告車以外に通行する車両はほとんどなかつた。

2  被告は、本件事故地点手前で道をまちがえたのに気付き、一旦停止し、発進後道路地図を見るために再度本件事故地点の約三メートル手前の車道北端左方向指示器を点滅させて停止した。被告は、道路地図を見た後、Uターンするべく、右サイドミラーのみによつて後方を確認したが車両の存在を認めなかつたことから、右方向指示器を点滅させることなく、ハンドルを右に切りながら発進し、時速約一五キロメートルに加速したところ、被告車の右前部が後方から進行してきた原告車の左前部と衝突した(右衝突態様は当事者間に争いがない。)。

3  他方、原告鄭は、被告車の後方を時速約三〇キロメートルで走行中、前記被告車の走行状況を見て、道に迷ったような運転をしていると判断したが、本件事故地点の約三メートル手前の道路端に停止している被告車の右横を通過すべく、特に減速したり、被告車の動向を注視することなく、そのまま東行追越車線上を走行していたところ、本件事故地点の約四メートル手前(西方)で、本件事故地点の約一・三メートル手前(北西方)まで進行してきている被告車を発見し、急ブレーキをかけたが前記の態様で衝突した。衝突後、原告車は西行車線に押し出され、原告鄭がブレーキペダルから一旦足を離したこともあつて、本件事故地点から約一四メートル先の西行車線上の車道南端に停止した。(なお、本件事故による原告者及び被告車の損傷状況は証拠上明らかでない。)

三  原告鄭の受傷及び治療経過について

請求原因3(一)のうち、原告鄭の入通院状況については当事者間に争いがなく、前掲甲第一九号証、成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一ないし四、第六、第八、第一一、第一二号証、乙第三号証の一、二、第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし三、第六号証の一ないし三、第七号証の一、二、第八ないし第一三号証、第二六、第二七、第三〇、第三一号証及び第三七ないし第三九号証、証人高井澄男の証言、原告鄭本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告鄭(昭和二八年一一月七日生。本件事故当時満三二歳)は、シートベルトをして原告車を運転していたが、本件事故の衝撃によつて、右側頭部を原告車のドア部分で打撲し、右側頭部痛を訴えて、本件事故当日、本件事故現場付近の蘇生会病院に赴いて受診したところ、担当医師はこれを右側頭部打撲傷と診断し、内服薬や外用薬を投与した。なお、その際、頭部X線検査所見に異常はなく、上下肢の知覚や運動にも異常がなかつた。

2  原告鄭は、その後二日間は自宅で療養していたが、頭痛が改善せず、頸部のしびれ感や嘔気も加わったことから、比較的当時の自宅に近い高井病院で受診したところ、担当医師は頸部捻挫と診断し、頸椎カラーを装着させ、投薬等の治療をした。

3  高井病院の担当医師は、原告鄭が本件事故の一〇日後の昭和六一年八月二五日に受診した際に、同人の症状はいわゆる急性期を過ぎて慢性期(回復期)に入つたものと一応考えて頸椎牽引の処置を指示したが、同人が全然睡眠がとれず、頭が痛くて仕方がないと訴え、同人の睡眠不足が外見上明らかであつたことから、症状が増悪してきているものと判断し、同人に対して入院を勧告した。

4  原告鄭は高井病院において頸椎のX線検査を受けたが特に異常所見はなかつた。しかし、腱反射の検査の結果は、上肢の反射が亢進していた。

5  高井病院における入院中、原告鄭は、投薬、頸椎牽引、はりなどの治療を受けていたが、同年一一月五日ころから、原告鄭の頸部痛等が軽減してきたことから、右担当医師は、日常生活をしても症状が悪化するおそれがないと判断し、同月一五日退院を指示した。また、右担当医師は、原告鄭は右退院後一ないし二週間経過すれば、危険な仕事や根気を要する仕事を除けば、通常の仕事に就くことは医学上問題がないと判断していた。

6  右退院後、原告鄭は、頭痛等を訴えて通院し、頸部牽引、機能訓練、低周波、投薬治療を継続して受けていたが、同年一二月一日以降は、その症状には著変がなく、右担当医師は、昭和六二年三月二七日に至り、これ以上治療を続けても症状が変わらないと判断し、頸部運動制限、運動痛、頭痛、両上肢しびれ感、上腕神経その圧痛などの後遺障害を残して症状固定した旨の診断をした。その後、原告鄭は、右後遺障害について、自動車保険料率算定会より自賠法施行令二条別表第一四級一〇号に該当する旨の認定を受けた。

7  なお、原告鄭は、高井病院に入院中に視力低下を訴えて、枚方市民病院眼科において受診したが、特に他覚的な異常所見は認められなかつた。

四  原告鄭の損害

1  治療費 金二六六万二四〇〇円

(一)  被告は、高井病院における入院治療は本件事故と因果関係がない旨主張するが、前記認定のとおり、入院治療は担当医師の勧告に基づくものであり、その勧告理由も原告鄭の主訴内容や睡眠不足等の外見的事業から同人の症状が増悪したものと判断したことによるものであつて、特に不合理なものとはいえない。もつとも、右入院時期は、いわゆる急性期経過後ではあつたが、そのことだけで入院の必要性を否定するに足りる事情とはいい難く、また本件事故による衝撃の大きさも、それほど大きな衝撃であつたとはいえないまでも、車両の損傷状況が不明であることもあつて、前記症状の増悪自体を疑わしめるほど軽微な衝撃であつたことを認めるに足りる証拠もない。また、退院時期についても、原告鄭の頸部痛等の軽減してきた時から約一〇日後の退院であつて医師の判断に基づくものであり、右判断が特に不合理であつたことを認めるに足りる事情もない。

してみると、原告鄭の入院治療は、その全期間を通じて本件事故と相当因果関係があるというべきである。

(二)  前記のとおり、原告鄭は、昭和六二年三月二七日を症状固定日とする旨の診断を受けていたものではあるが、他方、高井病院退院後は、治療を続けをも一二月一日以後その症状に著変はなかつたものであり、また退院後一ないし二週間すれば通常の仕事に就くことは医学上問題がないと判断されており、さらに原告鄭は、昭和六二年一ないし二月ころに担当医師からぼつぼつ体を動かしてみてはどうかと勧められていた(原告鄭本人尋問によりこれを認める。)のであつて、これらのことに本件事故による衝撃がさほど大きいものだつたとは考え難いことや症状に著変がなくなつた時点から一ないし二か月程度は症状経過観察の意味においても治療が不必要であつたことはいい難いことも考慮すれば、本件事故と相当因果関係に立つ高井病院における治療は遅くとも昭和六二年一月末日までであつたと認めるのが相当である。

(三)  原告鄭は、前記のとおり、視力低下を訴えて、枚方市民病院眼科にて受診したものではあるが、特に他覚的な異常所見も見られなかつたのであるから、原告鄭の右受診と本件事故とは因果関係があるものとはいい難く、他に右因果関係を基礎づける証拠もない。

(四)  なお、被告は、診療報酬明細書に薬品名の記載のない投薬料については支払義務を負わない旨主張するが、証人高井澄男の証言及び前掲甲第三号証の四によれば、安価な薬剤(例えばセデス)については右明細書に薬品名の記載を要しない扱いになつており、実際に原告鄭か疼痛を訴えた時などに右薬剤を投与していたことが認められるから、被告の右主張は失当である。

(五)  そうすると、本件事故と相当因果関係に立つ治療費は次のとおりとなる。

(1) 蘇生会病院 金一万四三二〇円(前掲乙第三号証の二によりこれを認める。)

(2) 高井病院(但し、昭和六一年八月一八日から昭和六二年一月三一日までの分) 金二六四万八〇八〇円(前掲乙第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし三、第六号証の一ないし三、第七号証の一、二、第八ないし第一〇号証によりこれを認める。)

(3) 以上合計金二六六万二四〇〇円

2  付添費

証人高井澄男の証言によれば、原告鄭について入院期間中も付添看護は不要であつたことが認められ、他に付添看護が必要であつたことを認めるに足りる証拠はない。

3  入院諸雑費 金九万九六〇〇円

前認定の原告鄭の受傷内容、治療経過に鑑みれば、原告鄭は八三日間の入院期間中に、少なくとも一日あたり金一二〇〇円、合計九万九六〇〇円の雑費を要したものと推認することができる。

4  通院交通費

原告鄭は、通院交通費(タクシー代)を要したことの証拠として乙第二五号証の一ないし三一を提出するが、これらはいずれも日付のないものあるいは原告鄭入院期間中の日付のものであり、これらをもつて通院交通費を要したことの証拠とすることはできず、他に通院交通費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

5  休業損害 金一八六万八八五四円

(一)  証人日山大次郎の証言及びこれによつて真正に成立したものと認められる乙第三六、第八三号証、原告鄭本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 原告鄭は、本件事故当時、ダンプカーを所有、運転して、兄の営む残土運搬業の下請をし、兄から請負代金を得て生計を立てていたものであるが、その請負代金は、本件事故前の昭和六一年四月から同年六月までの三か月間の合計が金二二八万七八〇〇円(一か月平均金七六万二六〇〇円)であつた。

(2) 原告鄭の下請けにともなう諸経費(ガソリン代、ダンプカーの修理費、車検費用、消耗品代など)は、相当額にのぼつていたが、すべて原告鄭が負担していた。

(3) 原告鄭の申告所得額は、年二〇〇万円前後であつた(もつとも、申告書が証拠として提出されていないので正確な金額は不明である。)。

(4) 原告鄭は、本件事故後、昭和六二年三月末まで右下請の仕事を休業した。

(二)  以上の事実に基づいて原告鄭の休業損害について検討する。

(1) まず、休業損害の基礎となるべき収入額について、原告鄭は平均月額七六万二六〇〇円の請負代金を得ていたが、経費はすべて原告鄭の負担とされていたものであるところ、経費は相当多額にのぼると考えられ、しかも年二〇〇万前後の所得申告しかしていないことも併せ考えると、経費当控除後の収入額がどの程度の金額か不明であるといわざるを得ず、結局その額の証明がないことに帰着する。

しかしながら、原告鄭は、本件事故当時満三二歳の健康な男子で残土運搬業の下請けとしてダンプカーの運転に従事していたことが認められるので、本件事故後も、少なくとも昭和六一年度賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計三〇ないし三四歳男子労働者の平均年間給与額の金四〇七万七五〇〇円に匹敵する収入を得ることができたものと推認するのが相当である。

(2) 原告鄭は、本件事故後昭和六二年三月末日まで休業していたものであるが、本件事故の衝撃の程度、原告鄭の治療経過、症状の内容、経過、職業の内容を総合すれば、本件事故と相当因果関係に立つ休業期間は、本件事故日から昭和六二年一月末日までの五か月半であると認めるのが相当である。

(3) そうすると、原告鄭の休業損害は、次式のとおり金一八六万八八五四円となる。

四〇七万七五〇〇÷一二×五・五=一八六万八八五四

6  後遺障害による逸失利益 金三七万九四九二円

前記認定の後遺障害の内容及びその程度に照らせば、原告鄭は、右後遺障害によつて、昭和六二年二月一日以降二年間にわたり、その労働能力を五パーセント喪失したものと認められるので、前記年収額からホフマン式計算法によつて年五分の割合による中間利息を控除して、原告鄭の逸失利益の右当時における現価を算出すると、次式のとおり金三七万九四九二円となる。

四〇七万七五〇〇×〇・〇五×一・八六一四=三七万九四九二

7  慰藉料 金一三〇万円

原告鄭の前記認定の受傷内容、治療経過、後遺障害の内容、程度その他本件証拠上認められる諸般の事情を考慮すれば、本件事故によつて原告鄭が受けた精神的、肉体的苦痛に対する慰藉料としては、金一三〇万円が相当であると認められる。

8  物損(メガネ代)

前認定のとおり、枚方市民病院眼科における診察の結果、原告鄭には特に他覚的な異常所見がなかつたことが認められ、このことからすると、原告鄭に視力低下があつたとしても、本件事故と相当因果関係に立つものであつたとは認め難く、その他に本件事故により原告鄭がメガネ代の出捐を余儀なくされたことを認めるに足りる証拠はない。

9  原告鄭の以上の損害合計額は、金六三一万〇三四六円となる。

五  原告金の受傷及び治療経過について

請求原因3(二)のうち、原告金の入通院状況については当事者間に争いがなく、前掲甲第二〇号証、成立に争いのない甲第四号証、第五号証の一ないし四、第七、第九、第一〇、第一三号証、乙第一四ないし第一六号証、第一七号証の一ないし三、第一八号証の一、二、第一九ないし第二四号証、第二八、第二九、第三二、第三三号証及び第四〇ないし第四二号証、証人高井澄男の証言、原告金本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告金(昭和二九年二月二〇日生。本件事故当時満三二歳)は、シートベルトをして原告車助手席に同乗していたが、本件事故の衝撃によつて、左肘部を打撲するなどして、本件事故当日、蘇生会病院に赴いて受診したところ、担当医師はこれを左肘部打撲傷と診断した。その際、原告金には手足のしびれの症状があつた。

2  原告金、その後二日間は自宅で療養していたが、項部痛が出現するなどしたため、比較的自宅に近い高井病院で受診したところ、その担当医師は頸部捻挫、左肩打撲等と診断し、投薬、頸部牽引等の治療をしていたが、昭和六一年九月になつてから腰痛の訴えも強くなり、同月一日からは腰椎牽引の治療も行つた。

3  原告金は、同月一一日の受診時に、めまいを訴え、さらに同月一七日受診時には、不眠、嘔吐、嘔気、ふらつきを訴えた。さらに同月二〇日の受診時には、不眠強く、めまいがあることを訴えたため、担当医師は、原告金の症状が増悪してきたと判断するとともに、不眠が外見上明らかであり、めまいなどの症状が不眠によるものであれば、入院のうえ睡眠をとらせる方向で治療すれば症状がとれると判断して、同月二〇日、入院を勧告、指示した。

5  原告金は高井病院において、頸椎のX線検査を受けたが、特に異常所見はなかつた。しかし、腱反射の検査の結果は上肢の反射が亢進していた。

6  原告金は、同年一一月一二日にめまいや頸部痛の症状を残していたが、頸部痛も自制内であることが多く、担当医師は、症状が全体として軽快してきたと判断し、日常生活に耐えられると考えて、同月一五日退院を指示した。右担当医師は、右退院時点で、原告金の症状は家事労働に特に支障がないと判断していた。

7  右退院後、原告金は、頭痛、めまい、しびれ感などを訴えて通院し(退院後、昭和六二年三月二七日までの実通院日数は七三日、昭和六二年一月末日までの実通院日数は四三日であつた。)、頸部牽引、腰椎牽引、機能訓練、投薬治療を受けていたが、その症状には著変がなく、右担当医師は、昭和六二年三月二七日に至り、これ以上治療を続けても症状が変わらないと判断し、頸部運動制限、運動痛、頭痛、両上肢しびれ感、上腕神経そう圧痛などの後遺症害を残して症状固定した旨の診断をした。その後、原告金は、右後遺症害について、自動車保険料率算定会より自賠法施行令二条別表第一四級一〇号に該当する旨の認定を受けた。

8  なお、原告金は、高井病院に入院中に視力障害、耳鳴りを訴えて、これらの症状について、枚方市民病院の眼科及び耳鼻咽喉科において受診したが、特に他覚的な異常所見は認められなかつた。

六  原告金の損害

1  治療費 金二三〇万六九二〇円

(一)  被告は、高井病院における入院治療は本件事故と因果関係がない旨主張するが、前記認定のとおり、入院治療は担当医師の勧告、指示に基づくものであり、その勧告理由も原告金の主訴内容や睡眠不足等の外見的事情から同人の症状が増悪したものと判断したことによるものであつて、特に不合理なものとはいえない。もつとも、右入院時期は、いわゆる急性期経過後ではあつたが、そのことだけで入院の必要性を否定するに足りる事情とはいい難く、また本件事故による衝撃の大きさも、それほど大きな衝撃であつたとはいえないまでも、車両の損傷状況が不明であることもあつて、前記症状の増悪自体を疑わしめるほど軽微な衝撃であつたことを認めるに足りる証拠もない。また、退院時期についても、原告金の症状等からみて日常生活や家事労働に特に支障がない程度にまで至つた旨の医師の判断に基づくものであり、右判断が特に不合理であつたことを認めるに足りる事情もない。

してみると、原告金の入院治療は、その全期間を通じて本件事故と相当因果関係があるというべきである。

(二)  前記のとおり、高井病院の担当医師は、原告金の症状固定時期を昭和六二年三月二七日とする旨の診断をしたものであるが、他方、原告金は、高井病院退院後は通院治療を続けるもその症状に著変がなかつたものであり、また退院時には既に家事労働に特に支障はないものと判断されていたのであつて、これらのことに本件事故による衝撃がさほど大きいものだつたとは考え難いことや、一般に症状に著変がなくなつた時点から一ないし二か月程度は症状経過観察の意味においても治療が不必要であつたとはいい難いことも考慮すれば、本件事故と相当因果関係に立つ高井病院における治療は遅くとも昭和六二年一月末日までであつたと認めるのが相当である。

(三)  原告金は、前記のとおり、視力障害や耳鳴りを訴えて、枚方市民病院眼科及び耳鼻咽喉科にて受診したものではあるが、特に他覚的な異常所見も見られなかつたのであるから、原告金の右受診と本件事故とは因果関係があるものとはいい難く、他に右因果関係を基礎づける証拠もない。

(四)  なお、被告は、診療報酬明細書に薬品名の記載のない投薬料については支払義務を負わない旨主張するが、証人高井澄男の証言及び前掲甲第五号証の四によれば、安価な薬剤(例えばセデス)については右明細書に薬品名の記載を要しない扱いになつており、実際に原告金が疼痛を訴えた時などに右薬剤を投与していたことが認められるから、被告の右主張は失当である。

(五)  そうすると、本件事故と相当因果関係に立つ治療費は次のとおりとなる。

(1) 蘇生会病院 金二万〇三二〇円(前掲甲第七号証によりこれを認める。)

(2) 高井病院(但し、昭和六一年八月一八日から昭和六二年一月三一日までの分) 金二二八万六六〇〇円(前掲乙第一六号証、第一七号証の一ないし三、第一八号証の一、二、第一九ないし第二二号証によりこれを認める。)

(3) 以上合計金二三〇万六九二〇円

2  付添費

証人高井澄男の証言によれば、原告金について入院期間中付添看護は特に必要ではなかつたことが認められ、他に付添看護が必要であつたことを認めるに足りる証拠はない。

3  入院諸雑費 金六万八四〇〇円

前認定の原告金の受傷内容、治療経過に鑑みれば、原告金は五七日間の入院期間中に、少なくとも一日あたり金一二〇〇円、合計六万八四〇〇円の雑費を要したものと推認することができる。

4  休業損害 金九三万九七八一円

原告金本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告金は本件事故当時満三二歳の健康な女子で、夫(原告鄭)との間に三人の子女を持つ主婦として家事をとるかたわら、会社勤めをしていたものであり、右認定に反する証拠はない。

また、前記認定の原告金の受傷の程度、治療経過、殊に高井病院退院後は家事労働に特に支障がないと医師によつて判断されていたこと等に照らせば、原告金は本件事故の日から高井病院退院当日の昭和六一年一一月一五日までの三か月間はその労働能力の一〇〇パーセントを、その後昭和六二年一月末日までの二か月半の間はその五〇パーセントをそれぞれ失つていたものと推認するのが相当である。

右事実によれば、原告金は、右期間中、一年につき、少なくとも昭和六一年度賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計の三〇歳ないし三四歳女子労働者の平均年間給与額二六五万三五〇〇円に匹敵する収入に前記休業期間及び労働能力喪失割合を乗じた休業損害を蒙つたと認めるのが相当である。

二六五万三五〇〇÷一二×三+二六五万三五〇〇÷一二×二・五×〇・五=九三万九七八一

5  後遺障害による逸失利益 金二四万六九六一円

前記認定の後遺障害の内容及びその程度に照らせば、原告金は、右後遺障害によつて、昭和六二年二月一日以降二年間にわたり、その労働能力を五パーセント喪失したものと認められるので、前記年収額からホフマン式計算法によつて年五分の割合による中間利息を控除して、原告金の逸失利益の右当時における現価を算出すると、次式のとおり金二四万六九六一円となる。

二六五万三五〇〇×〇・〇五×一・八六一四=二四万六九六一

6  慰藉料 金一二〇万円

原告金の前記認定の受傷内容、治療経過、後遺障害の内容、程度その他本件証拠上認められる諸般の事情を考慮すれば、本件事故によつて原告金が受けた精神的、肉体的苦痛に対する慰藉料としては、金一二〇万円が相当であると認められる。

7  物損(メガネ代)

前認定のとおり、枚方市民病院眼科における診察の結果、原告金には特に他覚的な異常所見がなかつたことが認められ、このことからすると、原告金に視力障害があつたとしても、本件事故と因果関係に立つものであつたとは認め難く、その他に本件事故により原告金がメガネ代の出捐を余儀なくされたことを認めるに足りる証拠はない。

8  原告金の以上の損害合計額は、金四七六万二〇六二円となる。

七  過失相殺

本件事故の状況、態様は前記二認定のとおりであり、これによれば、本件事故の主たる原因は、東西道路の車道北端に停止中の被告車をUターンさせるべく、ハンドルを右に切りながら発進させるにあたり、サイドミラーを通して後方を見ただけで、目視等により十分後方の安全を確認せず、しかも右方向指示器を点滅させることもなかつた被告の過失にあるというべきであるが、原告鄭も、本件事故現場手前から、自車の前方を走行する被告車が停止したり発進したりして道に迷つたような運転をしていることを認めていたのであるから、車道端に停止中の被告車の側方を通過しようとする際には、被告車の動静に注視して減速し、あるいは自車の接近を被告車に知らせるべく警笛を鳴らすべき注意義務があるというべきところ、原告鄭はこれを怠り、漫然と時速約三〇キロメートルのまま進行し、原告車が本件事故地点手前約四メートルに至るまで、被告車が発進したことに気付かなかつた過失がある(原告があらかじめ減速したうえ、被告車の動静を注視していて被告車が発進しようとした時にただちに制動又は転把の措置をとつていれば、本件事故は避け得たと考えられるし、仮に衝突したとしても、右措置をとつていれば損害の拡大は防止し得たものと考えられる。)というべきであり、右原告鄭の過失割合は一割とみるのが相当である。そこで、原告鄭については被害者の過失として、原告金(原告鄭の妻)については被害者側の過失として、右過失を斟酌し、前記原告らの損害額からそれぞれその一割を控除するのが相当である

(右控除後の損害額は、原告鄭が金五六七万九三一一円、原告金が金四二八万五八五五円となる。)。

八  損害の填補

本件事故による損害について、原告鄭が、既に金四七〇万九〇四〇円の、原告金が既に金三四四万五〇一六円の支払いを受けていることは当事者間に争いがない。そうすると、右填補後の残額は、原告鄭が金九七万〇二七一円、原告金が金八四万〇八三九円となる。

九  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告両名が本訴の提起及び追行を弁護士である原告両名訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬の支払を約したことが認められるところ、本件事案の内容、審理経過、認容額等の諸事情に照らすと、本件事故と相当因果関係に立つ損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は、原告鄭が金一〇万円、原告金が金八万円と認めるのが相当である。

一〇  結論

以上のとおりであつて、原告らの本訴請求は、原告鄭については、被告に対し金一〇七万〇二七一円及びこれに対する本件事故当日である昭和六一年八月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告金については、被告に対し金九二万〇八三九円及びこれに対する前同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し、その余の請求部分はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 本多俊雄)

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